
ジュラ紀(約1億9960万年~1億4550万年前)の残存種と言われる「ムカシトンボ」について、北海道大学が研究の成果を発表した。
「ムカシトンボ」
「ムカシトンボ」は生きた化石とも呼ばれる日本を代表する昆虫である。近縁種は、中国東北部とヒマラヤ地域に限られているという。かつて、「ムカシトンボ」は、ジュラ紀には広く分布していた。
研究の結果、日本・中国・ネパールのムカシトンボには遺伝的な差異はほとんど見られなかった。以前は、ジュラ紀以降、長期間隔離されて残存してきたと思われていたが、このわずかな遺伝的差異は、それでは説明できない事が分かった。つまり、隔離されたのはもっと最近なのである。
「ムカシトンボ」は寒冷地に適応したトンボである。約2万年前にピークだった最終氷河期には、南アジアから東アジアまで広く分布していたが、氷河期が終わって地球が温暖になるに従って、熱帯や温帯の多くの地域で絶滅したという。そこで一部寒冷の地に残ったのが今の「ムカシトンボ」なのだ。
「ムカシトンボ」はただのトンボではない。遠いジュラ紀の記憶を残し、氷河期を生き抜いた地球の命の証だ。日本昆虫学会のシンボルマークでもあるこの「ムカシトンボ」は、温暖化が進めば絶滅してしまう。また、冷涼な清流にしか棲息できないため、ダムや河川の改修などの影響も受けやすい。
「ムカシトンボ」が絶滅する時は、人間自身にも危機が訪れる時かもしれない。そうならないように、できるだけの事をしておきたいものである。
北海道大学